2016年10月15日土曜日

【読書の秋】神保町で見つけた古書2016②【夜長妻は何を読む】

 先月のザ・キャピトルホテル東急にチェックインする前に、日中は神保町で古書店めぐりをしました。買った本及び購入した店舗のちょっとした紹介を記録していきます。

Crime and Detection An illustrated history from 1840, Julian Symons

 澤口書店東京古書店にてわずか1,080円で購入しました。
 ちなみに同店は面白いサービスを提供しており、1000円以上の古書を購入すると無料ドリンク券が配布されます。
 そのドリンク券が使える2階の自動販売機の横にある小さい洋書コーナーで発見しました。
 また、土日休みの古書店が多い中、年中無休というのも平日が忙しい人々にとっては嬉しい営業形態だと思います。

 Crimeといえど、1966年出版のため、チャールズ・マンソンやジェフリー・ダーマー、ジョン・ゲイシー等、20世紀後半発生型米国発の悪名高きサイコパス・シリアルキラーの言及はありません。

 また、英国で出版された本であるため、英国と隣接する欧州各国及び旧英国植民地の事件、警察制度、捜査・刑務所事情が中心となっています。
 欧州(より具体的には英国)中心主義との見方もできるかもしれませんが、仏語、独語、伊語、露語ができない身としては、西洋犯罪史を身近な言語で知ることができて便利です。

 むしろ知らないうちに米国中心主義のメディアに毒され過ぎだったかもなぁ、と気づかされる契機となりました。

 毒殺事件(ホーリー・クリッペン医師)、美女が絡む情痴事件(イブリン・ソー、エルヴィラ・バーニー)、禁酒法時代に火ぶたを切ったマフィアの各種抗争(アル・カポネだけではなく、イタリアンマフィアにも言及あり)、暗殺(リンカーン、JKF、オーストリア皇太子、未遂だけどヴィクトリア女王)、事件としては派手さはないが、刑法の範疇にあり社会を揺るがした政治的事件(スコッツボロ・ボーイズやサッコ・ヴァンゼッティ事件)、政治家のスキャンダル、詐欺事件に関する写真は味わい深いものがあります。

 犯罪現場そのものというよりも、当時の号外や被告の出廷シーン、平時の時の加害者や被害者のイラスト・顔写真がビジュアル資料の中心となっているので、グロ目当ての方は肩透かしかもしれません。数点のグロシーンはマフィア抗争に集中しています。

 なお、本書は、見開き2ページ、およそ80,000文字で1つのテーマを論じる構成を取っています。そのため、事件の背景や詳細についてはかなりはしょっていたり、紙面の都合上テーマがあちこち飛び回っていてまとまりのない箇所も散見され、この点でも混乱してしまう方はいるかもしれません。クイーンズイングリッシュ特有の表現と相まって、私も未だにこの構成にはちょっと慣れていません。しかし、個人的には80,000文字前後の分量自体はよい塩梅。何よりビジュアルが興味深く感じられるので、私は今のところ、千夜一夜物語のように1日1見開きを読むことを日課にしています。

 各事件についてはネットで様々な情報が見つかるでしょうから、ここでは個人的に魅力を感じたビジュアルについてちょっとだけ紹介します。
1860年ごろのイラスト。Symons曰く「英国人は制服を着た権威が嫌いな国民性」ゆえ、警察は風刺や嫌悪の対象だったとか。
「歩道のセイレーンたち」と呼ばれる女スリのあの手この手。

 (左)脱走に失敗し、烙印を押された帝政ロシアの囚人。(中央)帝政ロシアの死刑執行人。(右)背中に残る革の鞭のあと。
(左)イラク砂漠地帯のパトロール隊員を務めるベドゥインの民。(右)マオリの警官。
2つの大戦の狭間のフランス警察当局では、扮装が盛んに用いられていました。特に左派過激派や犯罪組織の潜入では重宝した技だったそう。(左から右)あるときは港湾労働者、あるときは本の押し売り営業マン、またあるときは殺人の共謀者に扮装…しかしてその実体はマルセイユのルボゼック警部(丸抜き写真)。

 トルコの警察署では、常設のメイクルームがありました。


タブロイド紙『デイリー・ミラー』は、武器の通販を手掛けていました。文章を読むと「割と最近まで売られていた」とあります。

 イングランドの騎馬警官の訓練風景。馬は倒れた人間を踏まずに走ること、銃声やセレモニー時に耳の近くで鳴るバグパイプの音に慣れる訓練をうけます。
 英国の大都市の掲示板に貼られた売春広告。「厳しい家庭教師」「バーチ―先生(バーチ→カバノキ→昔、教師が生徒のお仕置に使ったカバノキの鞭)」は女王様の隠語とのこと。

 1957年、シチリアはマッツァリノで「マフィアに命令されて」と村人からお金を巻き上げたカプチン会の僧侶たち。覆面ギャングに扮し、ゆすりに応じなかった農家の主を射殺したとされていますが、共犯の庭師が自殺したことで捜査は曖昧に。4人の僧侶のうち2人は4回目の裁判で恐喝・強要罪で懲役刑を言い渡されています。

 同書では「世紀の食わせ者」として紹介されていたヴィルヘルム・ヴォイトという名の靴職人の事件を描いた漫画。1906年、プロイセン近衛連隊のハウプトマン大尉に扮したヴォイトが兵士を引き連れてコペニックという町を占拠、4,000マルクをだまし取るという珍事件が起こりました。あくまで詐欺事件であり、流血はなし。隅に描かれたワンちゃんがそのほっこり加減を表している気がします。


同年、紐育を揺るがした事件のヒロインともいえるイブリン・ソー。彼女の夫でピッツバーグ出身の御曹司であるハリー・ソーが、若き日の妻の貞操をめぐりスタンフォード・ホワイトを射殺した事件です。ちなみにホワイトはかのマディソンスクエアガーデンの設計者として知られています。イブリンは15歳のときホワイトに誘惑されたと訴えますが、実際は長年愛人の座にあったこと、また、ソーのサド気質や精神疾患が明らかになり、当時としてはスキャンダラスな事件として注目されました。

 ただ、(欧州中心主義とかかわりがあるかもしれないのですが)日本人としては、日本の描写に少し悪意・作為を感じました。
 
 日本の警察については、1940年代の「危険思想を物理的手段による取り締まる"思想警官たち"(ブログ主注:多分、特高のことだと思います)」「満州侵攻後、日本は忠実なる現地の警察育成に注力。ここでは新京警察学校の若き中国人警官が、容疑者を尋問。横では日本人教官が指示及び批判を与えています」の2枚のみ。それ以外では、日本が発明した小型うそ発見器と、日本で作られたパチモンのウィスキーの事例が日本関連の事例として挙げられているのみ。うそ発見器についても、スコットランドヤードはその有効性を疑問視しているらしく、いわゆる「ニッポンノギジュツリョク」的なニュアンスの事例として挙げられているわけではありません。まぁ、昨今のメディアの「海外の人々がこんなに日本をほめてくれました」と喧伝するホルホル風潮もたいがいですけどね。いちいち海外の反応を確認しないと自国に愛着がわかないのでしょうか。

とにかく…この印象操作的な点だけを除けば、最強のコスパを誇る古書といえます。


【読書の秋】神保町で見つけた古書2016【夜長妻は何を読む】

 

 神保町付近に行くと必ずと言っていいほど立ち寄るマイ・フェイバリット古書店、キントト文庫。ポップな金魚のデコレーション、レトロな雑貨が所狭しと陳列されているのがまず目を引きますが、だまされてはいけません(?)。個人的に目当てとしているのは、もっとダークな古書のラインナップ。

 きっかけは、法医学のめりこみの嚆矢となったこの本。


 Forensic Filesが米国の法医事情学に目を開かせた番組ならば、このテキストは日本の法医学史に興味を持たせてくれたと言えます。

 この本自体は、キントト文庫では買っていないのですよ。実は初訪問時、同じ本をキントト文庫で目にしながら、そのときはちょっと怖くて手が出せず、購入を見送ってしまったのです。しかし、やはり気になって仕方がない。ネットオークションや地元の古書店を回っても見つからず、主人に相談して、有休を取った主人と一緒に図書館へ足を運んでOPACで必死に調べ上げてやっと題名が分かってAmazonでタイミングよく購入したという経緯があります。

 なお、この出来事以来、気に入った古書はその場で買うこととしています。古書は、しまむらの商品以上に一期一会ですので。

 長くなりましたが、その初訪問時時に、この古書店は犯罪・法医学関連のコーナーが充実しているんだな、と印象に残りました。今夏訪問時には、地元・神田の警察史の本もありました。今年は買い漏らしがないよう、じっくりと同店で品定めをした結果、以下3冊を購入。


 この中でも『法医学図説』は一番の買い物。図説とあるとおり、写真やイラストが満載です。何の写真かって?それは題名からお察しくださいませ。

 この本は「読む法医学から見る法医学へ」をモットーに、科捜研技官として第一線の警察官と身近に働く平島侃一博士と、東京医大の法医学教授佐藤文一博士が生み出した解説書です(昭和40年5月発行)。実際に捜査を手がけるが同時に多忙な警察官にとってわかりやすいレイアウト・説明を心がけており、左は文章、右は図表や写真という構成をとっています。コンパクトに要点をかいつまんでいるので、なるほど文系な私でも読みやすいです。「法医学とは」「現場とは」と、捜査の基本の「き」から始まり、死体観察、損傷、窒息、中毒その他、妊娠・性犯罪、鑑定資料の扱い方につきノウハウや心得が掲載されています。「眼を開き、耳を塞げ、口を閉じよ」が現場の心構えとして記されています。最初の2文はフランス法医学者ズベルジー博士のもの、最後の文は同じくフランス出身のブルーアルデル博士が付け加えたもので、フランスにおける捜査鑑識課員の座右の銘となっていたと、説明されています。

 そりゃまあ、DNAの「D」の字もない時代なので、ノウハウは現代の犯罪捜査には不向きではありますが、時代の匂いを感じるところに私は萌えるのです。それに、CSIマイアミのホレイショ・ケインやボディ・オブ・プルーフのDr.ハントが活躍するずっと前からわが国でも色んな人が地道に正義を履行し真実を追究していた事蹟を見るだけでも胸が躍りませんか?

 いわゆる胸熱だったのが、著者らのオリジナル研究「衣服の崩壊進行度」。木綿等の検査材料が屋外・水中・土中に放置されるとどれくらいの期間で崩壊するかを研究したものです。ラシャが最も丈夫という結果が出ています。



 死体観察のセクションで、「手から職業のヒントを得る方法」を伝授する表。女髪結、桶職、傘職…今ではとんとお目にかかれない職業です。次ページには荷車挽、画師、三味線弾も。今ではタブー視されている仲士という表現もありました。

 ちなみに洋裁は「臀部発達し、両足背及踝下に座タコありて猫背なるもの多し(特に和裁に多い)」のだそう。ハンドメイド愛好家としては、猫背は気をつけないと!

 受験参考書風な工夫もなされています。ページ下には一問一答が印刷されているのです。




 私は結構真面目に解いています。

 個人的な感覚としては、同書のごく初期にある「死斑・死体硬直・革皮様化」の概要が理解できると、その後の中身がスムーズに頭に入ってくる気がしました。

 ただ、先日のエントリーにある洋書ほど安くはなかったけどね。もちろん購入について後悔はしていませんが、高かった…古い図鑑以外では最も高値だったかも…リアルタイムで購入していたら1,300円だったそう…でも、この年の大卒初任給が22,553円だったそうなので、当時でも高い買い物だったのかな。特に刑事にとっては。

 キントトでの購入の経緯※ブログ主はカピバラのイメージでお送りいたします。

(1)主人が最初に見つける→6480円の値札を見た私は及び腰→値札の下の注意書きを読むよう促す主人

(2)そこには、「死体写真多数」との注意書きが→布団が吹っ飛んだ(フィクションです)

(3)購入



素朴な金魚のくせに…キントト、おそろしい子!(おそろしいのはお前だろ)なお、残りの2冊についてはまた後日レビューしたいと思います。


2016年9月23日金曜日

【ウィルソン医師殺害事件】Forensic FilesとDeadly Womenから見た未解決(?)事件。【それぞれの視点】

 歴史上の人物診断では私は八百屋お七タイプなのだそう。卑弥呼だの紫式部だの選択肢はほかにあるのに、なんでよりによって犯罪者なんだよ。歴史上の人物ってそういうことじゃねぇ。

 そう思いつつ今日も今日とて英語の勉強と称してForensic Files(以下FF)、FBI Files、 Deadly Women(DW)でヒアリングマラソンにいそしんでおります。

 原点に帰りForensic FilesをSeason 1から見直していたら、Deadly Womenで取り上げられていた事件がありました。同じ事件でも番組の方針によって視点が異なるものだな、と印象的だったので、見比べレビューを残しておきます。

【事件概要】
 1992年5月、アラバマ州ハンツヴィルにおいて眼科医ジャック・ウィルソン氏が自宅で殺害される事件が発生。遺体の横には凶器と思われる金属バットが発見されます。やがて不穏な噂が流れ、ジェームズ・ホワイトという男性が逮捕されますが、ホワイトはウィルソン氏の再婚相手の看護師ベティとその双子の姉妹でペギーの依頼を受けて殺害に及んだと告白。ホワイトは、ペギーが教師として勤める小学校に雑用係をしていました。その後、ホワイトのトレーラーハウスからベティ名義のリボルバーと、ベティが地元の図書館で借りた本が発見され、事件への関与が濃厚として姉妹は逮捕されます。裁判の過程でベティとペギーの対照的なライフスタイルが明らかに。不倫と贅沢に溺れるベティに、慈善活動に熱心なペギー。2人の人生同様、ベティは有罪・ペギーは無罪という対照的な判決が下されます。




ベティ本人(FF)



ぺギー本人(FF)

【FF S1 EP8 The Wilson Murder】
 まずショッキングかつやや気の毒だったのが、被害者の遺体がモロ見えで映し出される箇所。このエピソードをご覧になる際はご注意ください。FFはモザイクをかけるようなヤワな番組ではないものの、ホトケの表情はたいがい映らないような画像が選ばれます。しかし、このエピソードでは、目が開いたまま自宅の床に横たわる状態や、解剖台に乗せられた状態のウィルソン氏の映像がオンエアされています。これは、もしかしたら、未解決の要素のある事件の性質と関係があるのかもしれません。

 そう、「カガクノチカラで事件解決!」が基本路線のFFには珍しく、未解決の要素を持つエピソードなのです(当エピソード以降も法医学では未消化な事件が数件、取り上げられますが)。

 ホワイトは、姉妹の命を受け、ウィルソン氏の自宅の2階で氏の帰宅を待ち伏せし殺害の機会を待っていた、と当初証言します。帰宅したウィルソン氏は、すぐに2階には上がらず、庭先で選挙キャンペーンの看板を所有の金属バットで立てかけます。その間、待機中のホワイトはなぜか殺意が失せて逃げようとするのですが、バットを持ったまま上がってきたウィルソン氏と鉢合わせしてしまいます。ホワイトはウィルソン氏が持っていた金属バットで氏を殴り、ナイフで攻撃した後、車で待機中のベティと合流、現場から逃走します。


ホワイト本人(FF)

 ここで、ベティの車には毛髪や指紋等、ホワイトの遺留物が皆無という、法医学的に不可解な点がまず指摘されます(念入りに掃除すれば何とか隠ぺいできそうな気が個人的にはするのですけどね…)。

 とはいえウィルソン氏の600万ドルの遺産と、不倫の事実はベティに不利に働き、陪審員は有罪判決を下します。

~検死結果が二分され、裁判が長期化~
 ベティの有罪判決が出て8か月後にペギーの裁判が始まるのですが、ここで弁護側がジョージア州の監察医スペリー氏に独自に依頼した解剖結果が論争の的となります。

 まずペギーの弁護側は、ホワイトが「ウィルソン氏を殺した」とは証言していないことに着目。更に、ウィルソン氏が両腕を骨折し、頭部が血まみれで倒れていた割には現場の写真では血痕がほとんどないことを疑問点として挙げます。普通は壁や天井に血痕が移る、とスペリー氏は主張します。3番目に、凶器であるはずのバットにウィルソン氏の毛髪が見付からなかった点も挙げています。

 しかしながら最も裁判に衝撃を与えたのは、「そもそもバットは凶器ではない」とする、スペリー氏の持論。実は、ウィルソン氏の頭部と背部には火かきでできた刺創といえる損傷と舌骨骨折がありました。これは、ベティの裁判では説明がつかなかった傷です。スペリー氏のシナリオでは、2階ではないどこかでウィルソン氏は最低でも2人の加害者(FF再現ドラマではホワイトと、顔が見えない女性)に火かきのようなもので襲撃されると同時に扼殺されたと考えられます。そして、加害者はウィルソン氏を2階に運び、バットを凶器と誤認するようにウィルソン氏の血液をなすりつけて立ち去った、ということになります。

 このスペリー説については、「教科書の出来事をリアルな事件にあてはめて裁判をひっかきまわしている」と、検察官が露骨に不快感を示しています。

 番組では、第三者の視点として新たに2人の監察医が検察側の検死結果を検証。事件直後に「死因は鈍的外傷」と判定した公式監察医エンブリー氏の検視結果は「間違ってはいないが踏込み不足」と、2人の監察医はコメントします。実はエンブリー氏は現場に足を運んでいません。また、検察・警察から現場写真やバットを裁判直前まで提示されませんでした。ナレーションではこれらの点を「重大な過失」と断罪しています。なお、番組がエンブリー氏に照会したところ、アラバマ州検死局の文書を通じて自身の検視結果は正しいとし、番組出演を拒否しています。

 その後、ホワイトは従前の証言を撤回。ベティと会ったことなどなく、ウィルソン氏殺害の提案などなかったと主張…と思ったら今度は検察に強要されたとして、「撤回を撤回」し、無期懲役の身で従前の証言を通しています。

【DW S5EP13 Sins Of The Sister】
 FFではあっさり説明されていたベティの素行不良について、再現ドラマを通じてスポットが当てられています。

 DWは基本的に解説者の元FBIプロファイラー、キャンディス・デロン氏と元監察医ジャニス・アマトゥジオ氏(およびその他エピソードごとに事件に関与した警察当局やライター諸々)以外は再現ドラマで事件をあぶりだす形式をとっています。


ベティとホワイト(DW再現)

 再現ドラマでは、「医師の妻」という肩書と浪費が好物・クローン病のため消化管に障害を抱えるウィルソン氏を人前で罵倒したり、ウィルソン氏の面前で若い愛人を連れ込んだり、というように陪審員の心証を悪くするには十分なベティの行動様式がよりわかりやすい映像で浮き彫りになります。ちなみにFFでは”リアル”ベティが連行時の警察の無礼を批判する一方で、DWの”再現ドラマ”ベティは連行時に警察に「痛いわよ!」と、生意気な態度をとっています。



 分厚い毛皮のコートと同様の厚化粧、対照的にうっすいランジェリーに身を包むベティの傍らで、ペギーは肌の露出の少ないつつましやかなセーターやツーピース姿で登場。


ペギー(DW再現)

 事件前には勤務先でホワイトにランチの差し入れをする他、生活苦にあえぐホワイトの相談に乗る姿が再現ドラマで演出されます。ちなみに判例をチラ見したところ、ホワイトはペギーに恋していて、ウィルソン氏を殺害したのも彼女をなびかせるためだと述べています。本当に被害者のウィルソン先生が気の毒でなりません…

 ウィルソン氏は、貧しい患者からは診療代を取らず、地元で人気の医師として描かれこの点はFFと共通しています。


ウィルソン氏(DW再現)

4 5分弱で複数の女性犯罪者をカバーする関係から、DWでは人物造形がメインで、捜査や裁判についてはあっさり。法医学的相違点についての言及はなされず「ベティは有罪、ペギーは無罪。でもペギーはベティの無罪を信じているみたいよ」で再現ドラマは完結しています。〆のデロン氏も法医学の疑義については言及せず「ベティは今、いるべき場所にいる」と、淡々と有罪説を支持しているようです。

2015年11月27日金曜日

【トゥルー・クライム系番組】A Crime to Rememberで50年代~70年代米国の世相をかじる。

・・・月初はForensic FilesとFBI Filesまで書いていた。

 つい最近、時代を感じさせるトゥルー・クライム系番組を動画サイトで見つけたので記録しておきたい。

 その名も"A Crime to Remember"。自然科学系チャンネルDiscovery Channel擁するDiscovery Communications社が放つ、トゥルー・クライム系の番組である。トゥルー・クライム系番組のエキストラさんによれば、この番組が所属するInvestigation Discoveryは、犯罪系チャンネルでは大手らしい。





 公開されている今までのエピソードを観たところ、50年代~70年代の事件を中心にカバーされている。しかも、『逃亡者』のモデルとなった事件以外は、ジョン・ゲイシー、アルバート・デサルヴォ、エド・ゲインほど世界中に知られている凶悪犯が関与した事件ではなく、兇悪ながら地元新聞の3面記事でしか見られないような、ある意味、マイナーな事件づくし。

 特筆すべきは小道具による演出。

 衣装、髪型、自動車、日常のアイテム、喋り方や表現が時代をかなり忠実に反映している。終盤では実際の被害者・加害者双方の画像が役者とオーバーラップするシーンがあるが、再現性の高さにびっくりする(役者の方がややきれい目だけど)。低予算と思しき(涙)Forensic FilesやFBI Filesとは全く違うレベルのお金のかけ方が画面から伝わってくる。

 フィクションではあるが、これまた事件発生時の時代の風俗を細かく演出に使う刑事モノ『コールド・ケース~迷宮事件簿~』が好きな人ならおそらく気に入るであろう構成となっている。

 つい最近までtvkでオンエアされていたね。エンディング間近になって、事件解決後、被害者が身内や主人公の女刑事に微笑みながら成仏する(?)シーンは一種のカタルシス効果がある。

 加えていうと、A Crime to RememberではFBI FILES同様当時の映像を随所に挟み込んでいるので、ニュース映画を観賞する感覚で知的好奇心が刺激される。

 この番組は、古き良き時代を震撼させた事件を選ぶ傾向にあり、根底にあるテーマは、「米国社会が純情を失うとき」といえようか。しかし、単に昔はよかったという安直なレトロ趣味へのこだわりはなく、新しい価値観の萌芽を予感させる背景も浮き彫りにしている。例えば70年代のNYCで発生した「ローズアン・クイン殺害事件」(下の動画、"Last Night Stand"とのタイトルでオンエア)では、都会で自活しており性的に奔放な女性が被害者である。当時の自立した女性の出現と、それまでの「女は結婚までは純潔を守って実家暮らし、せめて寮で生活するもの」という旧式な価値観のせめぎあいがにじみ出ており、いわば「翔んでる女性なんだから殺されても仕方ないよね」と描きたがる目撃者・マスコミへの反発心が、同じく都会で働く語り部の女性のナレーションから感じ取れる。


この語り部という構成がForensic FilesやFBI Filesとは異なる構成で、新鮮である。もちろん架空の人物という設定だが、だいたいが被害者の顔見知りだったり、同僚であったり、はたまた事件を追うジャーナリストであったり、と手を変え品を変え様々な立場で事件が語られる。

 ちなみにこの事件は、ダイアン・キートン主演の『ミスター・グッドバーを探して』のモデルになったそうだ。リチャード・ギアやトム・ベレンジャーの出世作としても知られている。



  同番組で他にも非常に興味深かったのが、シーズン1第4話のユナイテッド航空629便爆破事件をモチーフにした"Time Bomb"。

「共感の欠如」を特徴とし、数十年後に米国で跋扈するサイコパスのプロトタイプとして加害者が描かれている。
また、番組終盤に検察官が指摘するように、いわゆる「空の安全」を問い直し、法改正の契機となった事件として描かれている。

【事件概要】
 1955年11月、デンバー発の旅客機が飛行中に爆破されるという事件が発生し、乗員・乗客44名が全員死亡。

 折しも航空会社の労働争議がかまびすしい時代であり、労使紛争との関連性も疑われた(同じころ日本でも鉄道の労働争議があったわけでその連動性が興味深い)。

 同時に航空事故の保険金目当ての可能性もあったためFBIは組合と乗客の身辺調査を開始する。

 一方、事故調査の担当者たちが飛行機の残骸を集めていた際、ある搭乗者のスーツケースから火薬とワイヤーの残骸が発見される。

 搭乗者の名はデイジー・キング。デンバー在住者で、アラスカに住む娘一家を訪問するところだったという。

 事故後、同居の息子ジャックに聞き込みしたところ、戦前の大恐慌に翻弄された親子像が浮かび上がる。1930年代、夫に先立たれたデイジーは2人の子供を孤児院等に入れて働かざるをえなかったという。

 不況がデイジーの心をゆがませたのか。大恐慌が終わってもデイジーは子供たちとは疎遠であったようだ。翻って、子供たちは、性格がきつかった生前のデイジーを持て余していた節があった。

 更に身辺調査を進めると、戦後、家庭を持ったジャックに急接近したデイジーはジャックとドライブインを開店したという。

 そのドライブインには以前不審な爆破事故によって多額の保険金が支払われたこと、ジャックには小切手詐欺や酒の不法輸送の前科がついていたことが発覚する。

 また、デイジーとドライブインを共同経営していたジャックは、店の財政をめぐって上司ともいえる実母との口論が絶えなかったとの証言が店員たちから得られた。

 FBIがジャックをホシとみなすきっかけとなったのは、2つの要素であった。

 1つは、ジャックがデイジーのために空港で購入した航空事故保険で、現在価値で30万ドル強がかけられていた。
(ちなみに50年代~80年代まで、米国では空港内の自動販売機で航空事故保険が買えたそうで驚き!この番組で初めて知った!購入シーンも番組内に搭乗している!)

 もう1つは、ジャックの妻の証言。そういえば、とふと聞き込みの捜査官に彼女は伝える。空港までの車を出す間際になって、ジャックはスーツケースに「クリスマスプレゼント」と思しき箱を詰めたというのだ。

 「やっぱり親子だものね」。妻としてはジャックのやさしさを伝えたかったのだろうが、これを聞いた捜査官は色めき立ち、家宅捜索を開始。物的証拠と自白により、ジャックの逮捕に至った。一義的な動機はやはり保険金とされている。

 実はその当時、連邦法には旅客機爆破に関する刑法が定められていなかった。このため、デイジーへの殺人罪のみが立件されることとなったが判決からガス室による死刑までは14か月、と非常に短い。収監中、ジャックが自殺未遂を図った事情もあるが、FBIや検察、航空会社の厳しい姿勢を感じ取ることができる。母親を殺したことについては悔恨の念を表した一方で、残りの43名の殺害については何ら同情の意を示さないジャックの態度を考えると当然のことではあるが。

【トゥルー・クライム系番組】Deadly Womenで、同性の腹黒い面におののく。

 凶悪事件を起こした英語圏での実在の女性の殺人犯に特化したトゥルー・クライム番組です。

 元FBIプロファイラーのキャンディス・デロン氏(あのユナボマー事件の捜査も担当したそう)と元検死官ジャニス・アマトゥジオ氏がレギュラー出演し、再現ドラマの合間に、それぞれ心理学面・医学面から事件や犯人等についてコメントします。

 早期クールでは“A Crime to Remenber”ほど凝ってはいないが、初見の事件もあり、19世紀~1980年代くらいまでの事件が満載で興味深く観ておりました。

 ちなみに初期の頃は、経費削減のためプロの役者を雇わず、プロダクションのスタッフを再現ドラマに起用したという裏話もあります(YouTubeで公式チャンネルの中の人がコメントしているので間違いないかと)。

 ノンネイティブ故、私自身は演技のよしあしはよくわかりませんが、「あ~やっぱり。何かぎこちない演技の女優がいると思ったんだよね~」というコメントもちらほらあるのでわかる人にはわかるのかな。


 最近はネタ切れなのか、90年代やここ10年に発生した事件(しかもただ単に捨て鉢なだけのDQN率高し)が多くなってしまったのが惜しい。

 そんな中、個人的に記憶に残るエピソードがSeason 3第11話"Born Bad"。

 「人は育った環境等理由があって悪に染まる」と常々主張するデロンが「こいつらは生まれついての悪人だ」と評する咎人が揃っているという点でも珍しいと言えます。

 まずは1人目のガートルード・バニシェフスキーの場合。


 一言では「生まれついての悪人が嫉妬をかきたてられたときに起る悲劇」と言えましょうか。1965年、インディアナポリスにおいて、お金目当てに引き取った少女に対する家族ぐるみでの集団暴行・殺害を指揮した主犯とされた女性です。検察側は「インディアナ州で起こった最も凶悪な事件」と非難しています。

 ガートルードは、子供手当とアイロン仕事で生計を立てていたシングルマザーとして登場します。生活に疲れた様子が、洗濯物につばをぶっかける仕草からぷんぷん漂います。

 ある日、子供たちが旅芸人を親に持つのライケンス姉妹を自宅に連れて来ます。純情可憐な表情が印象的(綾波レイを人懐っこくした感じの子役ちゃん。実際のシルビアも可愛い普通の女の子という感じ。)な姉シルビアと、ポリオの後遺症で足に障害を持つ妹ジェニーが泊まりにやってきたのです。

 姉妹は両親の巡業ゆえに引っ越しを繰り返さざるを得ず、身内を含めあちこちの家庭を転々とする生活を送っていました。

 お金に目がくらんだガートルードは、後日姉妹を引き取りに来た父親を丸め込み、週20ドルの報酬を条件に「お嬢さんたちをきちんとしつけて育て上げる」と申し出ます。

 ガートルードによる姉妹への虐待が始まったのはその20ドルの支払い遅延がきっかけでした。

 しかし、デロン氏が「子供が複数いるにもかかわらず、虐待する側はたった1人の被害者を選び出すのは児童虐待ではよくあること」というように、矛先はシルビアへと絞られてしまいます。

 盗み食い、売春等あることないこと言い立てられた後、シルビアは地下室へ監禁されガートルードとのその娘たち、彼女らの男友達、そればかりかジェニーからも凄惨な暴力行為を受けることとなります。

 当然、食事も入浴も許されず、シルビアは衰弱していきます。再現ドラマも十分陰惨(やたら不潔に見えるセッティング)ですが、実際はもっとひどかったそうです。詳しくはウィキペディアでも読めます。しかし、この手の事件では珍しいことに、ガートルードがシルビアを淫売=性病持ちと吹き込んだためか、男どもは感染を恐れ、強姦は発生しなかったとのこと。

 極め付けは、シルビアの腹部に刻印されたとあるメッセージ。ガートルードは泣きわめくシルビアの腹部に「あたしはヤリマン。それが自慢。」という趣旨の文章を、熱した安全ピンで刻み付けていきます。

 この時点で彼女はシルビア殺害を決意していた、とデロン氏は分析しています。

 引き取られてから3か月後の10月末、シルビアは絶命してしまいます。アマトゥジオ氏は「栄養失調、感染症による免疫機能低下。それに伴う鬱病が彼女から生きる意志を奪った」と、医学的視点から解説しますが、文献によればそれに加えて脳出血、やけど、打撲、筋肉および神経損傷が直接的死因とされているようです。

 デロン氏は「嫉妬は、虐待や殺人の動機として一般的である。美貌、清廉性、処女性…ガートルードがとうの昔に喪失したものをシルビアは兼ね備えていた。ガートルードは嫉妬していたのだろう。そうしてシルビアを貶め、人生に対するストレスや怒りのはけ口として利用したのである。」と、述べています。

 遺体を前にパニック状態になったガートルードは警察に通報。そこからジェニーの反撃が始まり、全貌を語ることでガートルードらの逮捕に至ります。ただ、無期懲役と判決されながらも20年で模範囚としてガートルードが仮釈放を許されたことには後味の悪さを感じます。

 ただ…この事件は姉妹の父親も悪いと、個人的には思います。巡業で娘たちを連れていけないという事情は理解できるも、他人を信用しすぎ、善意を期待しすぎで社会を知らない成人の典型って感じ。親として、社会人として不用心すぎ。かといって、ガートルードがシルビアを殺害する理由にはなりませんけどね。当然のことながら。

 お次は3人目のシャロン・キンニーの場合。彼女については「生まれついての悪人が身の丈に合わぬ夢を抱いたことによる悲劇」といえるかもしれません。デロン氏は彼女を「社会病質者」と説明しています。

 シャロンの物語は、1969年、メキシコの刑務所でブライト・ノア似の女囚が女看守と談笑する場面から始まります。




 他の女囚や看守からも「ラ・ピストレーラ(女ピストル魔)」と、一目置かれる彼女こそがシャロン・キンニー。メキシコで恋人を殺害した罪で服役中の身です。「バーン!」と拳銃を打つ仕草で女囚をびびらせる仕草がコケット。

 実は彼女にとってこれは3回目の殺人で、1960年には米国で2件の殺人をおかしています。その頃のシャロンは、表向きはミズーリ州の郊外在住の平凡な二十歳の主婦。しかし、内心では結婚生活への失望でいっぱいで、サンダーバードや豪華旅行の雑誌広告を眺めながらため息をつく毎日を送っていました。動画スクショは、彼女による派手な生活の妄想の一コマです。

 作家ジム・ヘイズ氏曰く「閉塞感溢れる地元からさらってくれる白馬の王子様を求めて結婚したようなもの」でしたが、信心深い大学生の夫はその王子様からは程遠い存在だったようです。育児そっちのけで借金漬けになりながら贅沢三昧の生活を送るシャロンと夫との関係は次第に悪化していきます。

 この結婚生活にピリオドを打つべく、ある日、シャロンは昼寝中だった夫を射殺。




 しかも、当時2歳だった娘を下手人として仕立て上げるのです(おもちゃ感覚で銃をいじっていた娘が誤射した、という論理)。指紋でわからないのか、と思ってしまいますが、ナレーターのリンアン・ゼイガーはさらっと「銃が油まみれだったので指紋は検出されませんでした。警察はいぶかりながらもシャロンの訴えを聞き入れるしかありませんでした。」と、流しています。

 未亡人となったシャロンは莫大な保険金の他、新恋人を手に入れます。恋人は自動車セールスマンで既婚者のウォルターという男性でした。(おそらく虚偽の)妊娠を盾に離婚を迫るも煮え切らないウォルターへの嫌がらせとして、シャロンは第2の殺人に手を染めます。ウォルターの妻を郊外へ連れ出し、射殺するのです。さすがにこの件では逮捕されますが、凶器が見つからないということで無罪放免に。それからは地元のマフィアと行動を共にし、不渡小切手に関連する犯罪に関与したのちメキシコへ高飛びします。そこで出会ったオルドニェスという男性から帰国するための軍資金を盗むつもりが殺害してしまい、懲役10年を言い渡され、冒頭シーンへつながるというわけです。

 シャロンはその後どうなったか。再現ドラマは、袖の下を渡された女看守が牢獄の鍵を開け、不敵な笑みを浮かべたシャロンが脱獄するシーンで終わっています。




 つまり、わいろと引き換えに自由を手に入れたということです。

 何が怖いって、そのまま彼女の行方は杳として知れず、いまだ逃亡中の身だということ。前述のヘイズ氏は、女ピストル魔はまだ生きている、と考えているそうです。

2015年11月26日木曜日

【トゥルー・クライム系番組】Forensic FileとFBI Filesで科学の力とFBIの力を実感する(前半は自分語り)。

 飽きっぽいのは私の習性。
 人の意見に流されやすいのも私の習性。
 さすがに30代になってからは誰それが好きって言ってたから~嫌いって言ってたから~に振り回されることはあまりなくなったけど。

 そんなわけで飽きずに好きでいて、かつ他人にどう言われようとも揺るがないツボを探ってみた。

 それで。YouTubeを巡回しながら、ヨガやフィットネス以外にも飽きずに好きなものがあったことに気づいた。

 それは、事件・犯罪・法医学。いわゆるトゥルー・クライム。

 去年までは検死官が主人公の米国ドラマ『ボディ・オブ・プルーフ』にはまっていた。でも、不人気で打ち切りになっちゃった。主演のダナ・ディレイニー(ハント検死官役)はかっこいい40代女性、という設定で気に入っていたのにな。説教くさくて手垢のついた演出がたまに鼻についたことは否めないが。だいたいドラマは複雑な人間関係等挟み込むのが蛇足なんだよな~…と海外ドラマにもやや辟易していた昨今であった。刑事ドラマの人間関係の描写が好きな人ってどれくらいいるのだろう…個人的には必要ないかな…と思っている…

 そこで思い出したのが、海外滞在中に観ていたトゥルー・クライム系番組。だいたい海外に行くと熱中していた(現地の電話帳を読むことにも)。単身赴任中の父親の元へ遊びに行ったとき、全然TVの前から動かない私に父がいらついたこともあったっけ。

 米国東海岸滞在中にForensic Filesという科学捜査番組に没頭していたのを思い出した。

 1996年から続くご長寿番組で、科学捜査によって解決した全米の事件を1話構成で紹介している。

 様々な英語圏のトゥルー・クライム系番組の中でもナレーターを務めるPeter Thomas氏の語り口がもっとも聞き取りやすいので、ノンネイティブもお勧め。聞きやすいだけではなく、抑え気味な声音が番組の雰囲気と好相性。1人で深夜に聞いていると、ちょっと怖くなるくらい。

 YouTubeを漁ってみたところ、FilmRiseという、シーズン開始の第1話からほぼ完全に網羅している配信会社に行き当たった。見つけたその日からほぼ毎日閲覧している。

 似たような犯罪系・法医学系TV番組でFBI Filesという番組も配信しているため閲覧したところ、いずれもとある誘拐殺人事件を共通してフィーチャーしていたので、両番組の簡単な比較検討を行いたいと思う。


【事件概要】1994年クリスマス間近、ペンシルベニア州の小さな町で、ジョアン・カトリナックという女性と3か月の息子アレックスが自宅を出たきり行方知れずに。

 ジョアンはその日、息子を連れて義母とショッピングモールで落ち合う予定であった。

 不審に思った夫アンディが通報したところ、地下室のドアが開いていた上、電話線が切られているのに気づく。

 その後、ジョアンの車が100ヤード離れた場所で発見される。鑑識班はこのとき、車内からブロンドの髪を取りだしている。

 翌年4月、母子の遺体がトウモロコシ畑で発見された。ジョアンはマザーバッグを肩にかけたまま殴られた後、射殺されていることに加え、アレックスの遺体は彼女のお腹の上に置かれた状態だった。

 犯人がアンディの元恋人パトリシア・ローラーであることを突き止めたのは、通話記録、自宅への侵入経路の他毛髪であった。

 刑事は聞き込みから事件前後のローラーの髪の色を調べ上げ、科学捜査班は毛髪のミトコンドリアDNAを用いることで犯人特定に至った。

 なお、犯行当時、パトリシアは妊婦であり、出産から間もなく逮捕された。

 この事件は、ミトコンドリアDNAを用いて犯人逮捕に至った全米3番目の事例だそう。

【Forensic Files(以下FF)とFBI Files(以下FB)比較】
●構成
 FF:被害者の関係者やマスコミ関係者へのインタビューが多め。だいたい冒頭とエンディングにインタビューシーンが流れる。
 FB:捜査関係者のインタビューに時間が割かれている。また、FFより尺が長いため(FF約21分、FB約60分)再現ドラマにお金と時間がかかっている印象。

 本件では、FFになかった再現ドラマで、逮捕時、パトリシアが生まれたばかりの我が子に「捕まるとわかっていたら、お前を産んだりしなかったのに」と嘆き、それを自白(の一部)として取ったという捜査関係者の証言がある。再現ドラマによるショッキング度合はFFより高め。

●捜査
 FF:このケースでは、車内から検出した毛髪のミトコンドリアDNA以外にも、法医昆虫学者が遺体についたハエの孵化・成長状態も参考に死亡時刻を確定したことに言及。

 別エピソードではあるが、FBIのプロファイリングや目撃証言にはない人物を科学捜査で検挙する事例が紹介されており、主観が入りがちな行動科学や証言といったツールに一石を投じるスタンスである。

 FB:このケースでは、ミトコンドリアDNAが逮捕につながったと述べる点ではFFと共通する一方、FFにあった法医昆虫学には触れず。

 また、「ラララ科学の子」なFFに比べると、番組全体のスタンスとしては主役はあくまでFBI捜査官であり、法医学関係者は脇役、といった立ち位置を取っているイメージ。聞き込みや尋問といった古典的な手法にもまんべんなく焦点を当てている。

 FBは科学捜査によって解決した事件に限定せず、その名の通り、FBIが担当した事件についてカバーしている。マフィアの親玉ジョン・ゴッティや公民権運動に絡んだミシシッピ−・バーニングといった古い事件もオンエアされるので、法医学に関心がなくとも過去の風俗や映像に興味ある人も楽しめる内容になっている。

2014年10月23日木曜日

絞殺魔(リチャード・フライシャー監督)

 一九六二年~一九六四年の間、米国の学究都市・ボストンを震撼させた連続殺人事件をモチーフにした映画です。

 主人公アルバート・デサルヴォ役には甘いマスクのトニー・カーティス。この方、『刑事コロンボ』の「忘れられたスター」で犯人役を演じるジャネット・リーの三番目のご亭主でもあります。

 マサチューセッツ州ブルックス検事総長は当時の国内唯一の黒人検事総長。あの頃の時代背景を考えると非常に驚きです。また、民主党大好きな州内の公務員で共和党派だったということも更に驚き。そのブルックスから直々に特命タスクフォース指揮を任命されるジョン・S・ボトムリー副総長にはヘンリー・フォンダ。彼とともに犯人を追うディナターレ刑事にはジョージ・ケネディ。イタリア系のフォンダがイングランド系のボトムリーを演じて、アイルランド系のケネディがイタリア系のディナターレを演じるのが何やらあべこべで面白い。事件に関心はなくとも豪華な中高年役者の競演で素晴らしい。

 冒頭のクレジットから、本作の特徴ともいえるマルチ画面がガンガン登場します。スタッフ名が流れる横で、最初の殺人を犯し、犯行現場を物色するデサルヴォと思しき男性の姿が漫画のコマのようにスクリーンに映されるのです。この手法は、デサルヴォと被害者とのやりとり(郵便受けの名前を確認してドアまたはインターホン越しに「大家の依頼で修理に来ました」と告げてドアを開けさせるのが映画での手口。デサルヴォは配管工という設定)や遺体を発見する一般人と物言わぬ遺体との対面のシーンで多用されます。例えば、前者ではデサルヴォが狙いを定めたアパートに到着する画面が左半分、アパート内でくつろぐ女性の姿が右半分に映され、デサルヴォがドアを叩くと、右画面の女性がその音に気づいてドアへ向かう…といった斬新なビジュアルです。

 作品の前半部分では捜査当局の苦悩、住民のパニックやボストンの性的な暗部がメインに描写されています。観客目線では(少なくとも本作では)デサルヴォが犯人だと分かっていますが、一から捜査を始めるボトムリーらからすれば疑わしい経歴の持ち主は誰でも絞殺魔となりうるわけで、痴漢からいたずら電話魔、DV男に至るまで一斉捜査に奮闘する姿がこれまた分割画面を用いて表現されます。中には振られた腹いせに同性愛者の男性を女性がもっともらしい証拠をつきつけて犯人としてでっち上げる例も。

 デサルヴォ視点で物語が動くのは、後半から。顔出しで登場するのは作品が約一時間過ぎた後。普段はふつうの優しい家庭人でありながら、裸のマネキンを見たり、駐車スペースを他人に取られる等嫌な目にあったりすると心の中で飼っている「絞殺魔」が顕在化して凶行に及んでしまう…というのが製作者の見立てのようです。

 そんなある日、デサルヴォは独身だと勘違いした次の標的をアパートまでつけていったところ、部屋の中にいた彼女の夫に見つかってしまいます。強盗未遂として追いかけられる途中、デサルヴォは車にはねられて警察に拘束されます。誰にも追われてなどいなかったと法廷で言い張る彼は精神鑑定を受けることが決まり、そこでボトムリーが聞き取りを担当することに。一見温厚そうな学者風のボトムリーに乗せられ、不安と恐怖に駆られながら犯行を独白するカーティスの演技はお見事です。作品自体は犯行の告白・再現を終え、呆けたように佇むデサルヴォの名をボトムリーが呼ぶシーンで終了。

 その後「デサルヴォはボストン絞殺魔として裁かれることがないまま収監中であること(本作公開から約五年後にあたる一九七三年十一月、房内で刺殺されているのを発見されます)」「精神疾患患者をサポートする制度はいまだ米国において制定されていない」というやや説教じみたテロップが流れ、エンドクレジットへ。

 本作では多重人格障害が殺人鬼を生んだ、と製作者は結論付けています。実際には、モチーフとなった事件は被害者の人種、年齢、社会階層や職業に一貫性が見られない(当初は元ナースの独居老女ばかり狙っていたのが二か月後には若い独身女性が標的となっていた等)ため、上映当時及び今日に至るまではっきりとしていない点が多いようです。今夏になってやっと、犯人と目された(が、これら連続殺人事件の容疑者としてではなく強姦事件の容疑者として拘束)アルバート・デサルヴォのDNAが一連の殺人事件のうち一件と関与している、と現地警察当局が断定したくらいで、実は絞殺魔は複数存在した、という説も有力になっているとのこと。

 元FBIプロファイラーとして著名なロバート・レスラーも「被害者のパターンがあまりにも違いすぎているので単独犯行とは考え難い」との見解を示しています。よって、本作は大胆な仮説と脚色によってつくられたフィクションとして受け止めることが肝要かと。