2016年10月15日土曜日

【読書の秋】神保町で見つけた古書2016②【夜長妻は何を読む】

 先月のザ・キャピトルホテル東急にチェックインする前に、日中は神保町で古書店めぐりをしました。買った本及び購入した店舗のちょっとした紹介を記録していきます。

Crime and Detection An illustrated history from 1840, Julian Symons

 澤口書店東京古書店にてわずか1,080円で購入しました。
 ちなみに同店は面白いサービスを提供しており、1000円以上の古書を購入すると無料ドリンク券が配布されます。
 そのドリンク券が使える2階の自動販売機の横にある小さい洋書コーナーで発見しました。
 また、土日休みの古書店が多い中、年中無休というのも平日が忙しい人々にとっては嬉しい営業形態だと思います。

 Crimeといえど、1966年出版のため、チャールズ・マンソンやジェフリー・ダーマー、ジョン・ゲイシー等、20世紀後半発生型米国発の悪名高きサイコパス・シリアルキラーの言及はありません。

 また、英国で出版された本であるため、英国と隣接する欧州各国及び旧英国植民地の事件、警察制度、捜査・刑務所事情が中心となっています。
 欧州(より具体的には英国)中心主義との見方もできるかもしれませんが、仏語、独語、伊語、露語ができない身としては、西洋犯罪史を身近な言語で知ることができて便利です。

 むしろ知らないうちに米国中心主義のメディアに毒され過ぎだったかもなぁ、と気づかされる契機となりました。

 毒殺事件(ホーリー・クリッペン医師)、美女が絡む情痴事件(イブリン・ソー、エルヴィラ・バーニー)、禁酒法時代に火ぶたを切ったマフィアの各種抗争(アル・カポネだけではなく、イタリアンマフィアにも言及あり)、暗殺(リンカーン、JKF、オーストリア皇太子、未遂だけどヴィクトリア女王)、事件としては派手さはないが、刑法の範疇にあり社会を揺るがした政治的事件(スコッツボロ・ボーイズやサッコ・ヴァンゼッティ事件)、政治家のスキャンダル、詐欺事件に関する写真は味わい深いものがあります。

 犯罪現場そのものというよりも、当時の号外や被告の出廷シーン、平時の時の加害者や被害者のイラスト・顔写真がビジュアル資料の中心となっているので、グロ目当ての方は肩透かしかもしれません。数点のグロシーンはマフィア抗争に集中しています。

 なお、本書は、見開き2ページ、およそ80,000文字で1つのテーマを論じる構成を取っています。そのため、事件の背景や詳細についてはかなりはしょっていたり、紙面の都合上テーマがあちこち飛び回っていてまとまりのない箇所も散見され、この点でも混乱してしまう方はいるかもしれません。クイーンズイングリッシュ特有の表現と相まって、私も未だにこの構成にはちょっと慣れていません。しかし、個人的には80,000文字前後の分量自体はよい塩梅。何よりビジュアルが興味深く感じられるので、私は今のところ、千夜一夜物語のように1日1見開きを読むことを日課にしています。

 各事件についてはネットで様々な情報が見つかるでしょうから、ここでは個人的に魅力を感じたビジュアルについてちょっとだけ紹介します。
1860年ごろのイラスト。Symons曰く「英国人は制服を着た権威が嫌いな国民性」ゆえ、警察は風刺や嫌悪の対象だったとか。
「歩道のセイレーンたち」と呼ばれる女スリのあの手この手。

 (左)脱走に失敗し、烙印を押された帝政ロシアの囚人。(中央)帝政ロシアの死刑執行人。(右)背中に残る革の鞭のあと。
(左)イラク砂漠地帯のパトロール隊員を務めるベドゥインの民。(右)マオリの警官。
2つの大戦の狭間のフランス警察当局では、扮装が盛んに用いられていました。特に左派過激派や犯罪組織の潜入では重宝した技だったそう。(左から右)あるときは港湾労働者、あるときは本の押し売り営業マン、またあるときは殺人の共謀者に扮装…しかしてその実体はマルセイユのルボゼック警部(丸抜き写真)。

 トルコの警察署では、常設のメイクルームがありました。


タブロイド紙『デイリー・ミラー』は、武器の通販を手掛けていました。文章を読むと「割と最近まで売られていた」とあります。

 イングランドの騎馬警官の訓練風景。馬は倒れた人間を踏まずに走ること、銃声やセレモニー時に耳の近くで鳴るバグパイプの音に慣れる訓練をうけます。
 英国の大都市の掲示板に貼られた売春広告。「厳しい家庭教師」「バーチ―先生(バーチ→カバノキ→昔、教師が生徒のお仕置に使ったカバノキの鞭)」は女王様の隠語とのこと。

 1957年、シチリアはマッツァリノで「マフィアに命令されて」と村人からお金を巻き上げたカプチン会の僧侶たち。覆面ギャングに扮し、ゆすりに応じなかった農家の主を射殺したとされていますが、共犯の庭師が自殺したことで捜査は曖昧に。4人の僧侶のうち2人は4回目の裁判で恐喝・強要罪で懲役刑を言い渡されています。

 同書では「世紀の食わせ者」として紹介されていたヴィルヘルム・ヴォイトという名の靴職人の事件を描いた漫画。1906年、プロイセン近衛連隊のハウプトマン大尉に扮したヴォイトが兵士を引き連れてコペニックという町を占拠、4,000マルクをだまし取るという珍事件が起こりました。あくまで詐欺事件であり、流血はなし。隅に描かれたワンちゃんがそのほっこり加減を表している気がします。


同年、紐育を揺るがした事件のヒロインともいえるイブリン・ソー。彼女の夫でピッツバーグ出身の御曹司であるハリー・ソーが、若き日の妻の貞操をめぐりスタンフォード・ホワイトを射殺した事件です。ちなみにホワイトはかのマディソンスクエアガーデンの設計者として知られています。イブリンは15歳のときホワイトに誘惑されたと訴えますが、実際は長年愛人の座にあったこと、また、ソーのサド気質や精神疾患が明らかになり、当時としてはスキャンダラスな事件として注目されました。

 ただ、(欧州中心主義とかかわりがあるかもしれないのですが)日本人としては、日本の描写に少し悪意・作為を感じました。
 
 日本の警察については、1940年代の「危険思想を物理的手段による取り締まる"思想警官たち"(ブログ主注:多分、特高のことだと思います)」「満州侵攻後、日本は忠実なる現地の警察育成に注力。ここでは新京警察学校の若き中国人警官が、容疑者を尋問。横では日本人教官が指示及び批判を与えています」の2枚のみ。それ以外では、日本が発明した小型うそ発見器と、日本で作られたパチモンのウィスキーの事例が日本関連の事例として挙げられているのみ。うそ発見器についても、スコットランドヤードはその有効性を疑問視しているらしく、いわゆる「ニッポンノギジュツリョク」的なニュアンスの事例として挙げられているわけではありません。まぁ、昨今のメディアの「海外の人々がこんなに日本をほめてくれました」と喧伝するホルホル風潮もたいがいですけどね。いちいち海外の反応を確認しないと自国に愛着がわかないのでしょうか。

とにかく…この印象操作的な点だけを除けば、最強のコスパを誇る古書といえます。


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