つい最近、時代を感じさせるトゥルー・クライム系番組を動画サイトで見つけたので記録しておきたい。
その名も"A Crime to Remember"。自然科学系チャンネルDiscovery Channel擁するDiscovery Communications社が放つ、トゥルー・クライム系の番組である。トゥルー・クライム系番組のエキストラさんによれば、この番組が所属するInvestigation Discoveryは、犯罪系チャンネルでは大手らしい。
公開されている今までのエピソードを観たところ、50年代~70年代の事件を中心にカバーされている。しかも、『逃亡者』のモデルとなった事件以外は、ジョン・ゲイシー、アルバート・デサルヴォ、エド・ゲインほど世界中に知られている凶悪犯が関与した事件ではなく、兇悪ながら地元新聞の3面記事でしか見られないような、ある意味、マイナーな事件づくし。
特筆すべきは小道具による演出。
衣装、髪型、自動車、日常のアイテム、喋り方や表現が時代をかなり忠実に反映している。終盤では実際の被害者・加害者双方の画像が役者とオーバーラップするシーンがあるが、再現性の高さにびっくりする(役者の方がややきれい目だけど)。低予算と思しき(涙)Forensic FilesやFBI Filesとは全く違うレベルのお金のかけ方が画面から伝わってくる。
フィクションではあるが、これまた事件発生時の時代の風俗を細かく演出に使う刑事モノ『コールド・ケース~迷宮事件簿~』が好きな人ならおそらく気に入るであろう構成となっている。
つい最近までtvkでオンエアされていたね。エンディング間近になって、事件解決後、被害者が身内や主人公の女刑事に微笑みながら成仏する(?)シーンは一種のカタルシス効果がある。
加えていうと、A Crime to RememberではFBI FILES同様当時の映像を随所に挟み込んでいるので、ニュース映画を観賞する感覚で知的好奇心が刺激される。
この番組は、古き良き時代を震撼させた事件を選ぶ傾向にあり、根底にあるテーマは、「米国社会が純情を失うとき」といえようか。しかし、単に昔はよかったという安直なレトロ趣味へのこだわりはなく、新しい価値観の萌芽を予感させる背景も浮き彫りにしている。例えば70年代のNYCで発生した「ローズアン・クイン殺害事件」(下の動画、"Last Night Stand"とのタイトルでオンエア)では、都会で自活しており性的に奔放な女性が被害者である。当時の自立した女性の出現と、それまでの「女は結婚までは純潔を守って実家暮らし、せめて寮で生活するもの」という旧式な価値観のせめぎあいがにじみ出ており、いわば「翔んでる女性なんだから殺されても仕方ないよね」と描きたがる目撃者・マスコミへの反発心が、同じく都会で働く語り部の女性のナレーションから感じ取れる。
この語り部という構成がForensic FilesやFBI Filesとは異なる構成で、新鮮である。もちろん架空の人物という設定だが、だいたいが被害者の顔見知りだったり、同僚であったり、はたまた事件を追うジャーナリストであったり、と手を変え品を変え様々な立場で事件が語られる。
ちなみにこの事件は、ダイアン・キートン主演の『ミスター・グッドバーを探して』のモデルになったそうだ。リチャード・ギアやトム・ベレンジャーの出世作としても知られている。
同番組で他にも非常に興味深かったのが、シーズン1第4話のユナイテッド航空629便爆破事件をモチーフにした"Time Bomb"。
「共感の欠如」を特徴とし、数十年後に米国で跋扈するサイコパスのプロトタイプとして加害者が描かれている。
また、番組終盤に検察官が指摘するように、いわゆる「空の安全」を問い直し、法改正の契機となった事件として描かれている。
【事件概要】
1955年11月、デンバー発の旅客機が飛行中に爆破されるという事件が発生し、乗員・乗客44名が全員死亡。
折しも航空会社の労働争議がかまびすしい時代であり、労使紛争との関連性も疑われた(同じころ日本でも鉄道の労働争議があったわけでその連動性が興味深い)。
同時に航空事故の保険金目当ての可能性もあったためFBIは組合と乗客の身辺調査を開始する。
一方、事故調査の担当者たちが飛行機の残骸を集めていた際、ある搭乗者のスーツケースから火薬とワイヤーの残骸が発見される。
搭乗者の名はデイジー・キング。デンバー在住者で、アラスカに住む娘一家を訪問するところだったという。
事故後、同居の息子ジャックに聞き込みしたところ、戦前の大恐慌に翻弄された親子像が浮かび上がる。1930年代、夫に先立たれたデイジーは2人の子供を孤児院等に入れて働かざるをえなかったという。
不況がデイジーの心をゆがませたのか。大恐慌が終わってもデイジーは子供たちとは疎遠であったようだ。翻って、子供たちは、性格がきつかった生前のデイジーを持て余していた節があった。
更に身辺調査を進めると、戦後、家庭を持ったジャックに急接近したデイジーはジャックとドライブインを開店したという。
そのドライブインには以前不審な爆破事故によって多額の保険金が支払われたこと、ジャックには小切手詐欺や酒の不法輸送の前科がついていたことが発覚する。
また、デイジーとドライブインを共同経営していたジャックは、店の財政をめぐって上司ともいえる実母との口論が絶えなかったとの証言が店員たちから得られた。
FBIがジャックをホシとみなすきっかけとなったのは、2つの要素であった。
1つは、ジャックがデイジーのために空港で購入した航空事故保険で、現在価値で30万ドル強がかけられていた。
(ちなみに50年代~80年代まで、米国では空港内の自動販売機で航空事故保険が買えたそうで驚き!この番組で初めて知った!購入シーンも番組内に搭乗している!)
もう1つは、ジャックの妻の証言。そういえば、とふと聞き込みの捜査官に彼女は伝える。空港までの車を出す間際になって、ジャックはスーツケースに「クリスマスプレゼント」と思しき箱を詰めたというのだ。
「やっぱり親子だものね」。妻としてはジャックのやさしさを伝えたかったのだろうが、これを聞いた捜査官は色めき立ち、家宅捜索を開始。物的証拠と自白により、ジャックの逮捕に至った。一義的な動機はやはり保険金とされている。
実はその当時、連邦法には旅客機爆破に関する刑法が定められていなかった。このため、デイジーへの殺人罪のみが立件されることとなったが判決からガス室による死刑までは14か月、と非常に短い。収監中、ジャックが自殺未遂を図った事情もあるが、FBIや検察、航空会社の厳しい姿勢を感じ取ることができる。母親を殺したことについては悔恨の念を表した一方で、残りの43名の殺害については何ら同情の意を示さないジャックの態度を考えると当然のことではあるが。







