そう思いつつ今日も今日とて英語の勉強と称してForensic Files(以下FF)、FBI Files、 Deadly Women(DW)でヒアリングマラソンにいそしんでおります。
原点に帰りForensic FilesをSeason 1から見直していたら、Deadly Womenで取り上げられていた事件がありました。同じ事件でも番組の方針によって視点が異なるものだな、と印象的だったので、見比べレビューを残しておきます。
【事件概要】
1992年5月、アラバマ州ハンツヴィルにおいて眼科医ジャック・ウィルソン氏が自宅で殺害される事件が発生。遺体の横には凶器と思われる金属バットが発見されます。やがて不穏な噂が流れ、ジェームズ・ホワイトという男性が逮捕されますが、ホワイトはウィルソン氏の再婚相手の看護師ベティとその双子の姉妹でペギーの依頼を受けて殺害に及んだと告白。ホワイトは、ペギーが教師として勤める小学校に雑用係をしていました。その後、ホワイトのトレーラーハウスからベティ名義のリボルバーと、ベティが地元の図書館で借りた本が発見され、事件への関与が濃厚として姉妹は逮捕されます。裁判の過程でベティとペギーの対照的なライフスタイルが明らかに。不倫と贅沢に溺れるベティに、慈善活動に熱心なペギー。2人の人生同様、ベティは有罪・ペギーは無罪という対照的な判決が下されます。
ベティ本人(FF)
ぺギー本人(FF)
【FF S1 EP8 The Wilson Murder】
まずショッキングかつやや気の毒だったのが、被害者の遺体がモロ見えで映し出される箇所。このエピソードをご覧になる際はご注意ください。FFはモザイクをかけるようなヤワな番組ではないものの、ホトケの表情はたいがい映らないような画像が選ばれます。しかし、このエピソードでは、目が開いたまま自宅の床に横たわる状態や、解剖台に乗せられた状態のウィルソン氏の映像がオンエアされています。これは、もしかしたら、未解決の要素のある事件の性質と関係があるのかもしれません。
そう、「カガクノチカラで事件解決!」が基本路線のFFには珍しく、未解決の要素を持つエピソードなのです(当エピソード以降も法医学では未消化な事件が数件、取り上げられますが)。
ホワイトは、姉妹の命を受け、ウィルソン氏の自宅の2階で氏の帰宅を待ち伏せし殺害の機会を待っていた、と当初証言します。帰宅したウィルソン氏は、すぐに2階には上がらず、庭先で選挙キャンペーンの看板を所有の金属バットで立てかけます。その間、待機中のホワイトはなぜか殺意が失せて逃げようとするのですが、バットを持ったまま上がってきたウィルソン氏と鉢合わせしてしまいます。ホワイトはウィルソン氏が持っていた金属バットで氏を殴り、ナイフで攻撃した後、車で待機中のベティと合流、現場から逃走します。
ホワイト本人(FF)
ここで、ベティの車には毛髪や指紋等、ホワイトの遺留物が皆無という、法医学的に不可解な点がまず指摘されます(念入りに掃除すれば何とか隠ぺいできそうな気が個人的にはするのですけどね…)。
とはいえウィルソン氏の600万ドルの遺産と、不倫の事実はベティに不利に働き、陪審員は有罪判決を下します。
~検死結果が二分され、裁判が長期化~
ベティの有罪判決が出て8か月後にペギーの裁判が始まるのですが、ここで弁護側がジョージア州の監察医スペリー氏に独自に依頼した解剖結果が論争の的となります。
まずペギーの弁護側は、ホワイトが「ウィルソン氏を殺した」とは証言していないことに着目。更に、ウィルソン氏が両腕を骨折し、頭部が血まみれで倒れていた割には現場の写真では血痕がほとんどないことを疑問点として挙げます。普通は壁や天井に血痕が移る、とスペリー氏は主張します。3番目に、凶器であるはずのバットにウィルソン氏の毛髪が見付からなかった点も挙げています。
しかしながら最も裁判に衝撃を与えたのは、「そもそもバットは凶器ではない」とする、スペリー氏の持論。実は、ウィルソン氏の頭部と背部には火かきでできた刺創といえる損傷と舌骨骨折がありました。これは、ベティの裁判では説明がつかなかった傷です。スペリー氏のシナリオでは、2階ではないどこかでウィルソン氏は最低でも2人の加害者(FF再現ドラマではホワイトと、顔が見えない女性)に火かきのようなもので襲撃されると同時に扼殺されたと考えられます。そして、加害者はウィルソン氏を2階に運び、バットを凶器と誤認するようにウィルソン氏の血液をなすりつけて立ち去った、ということになります。
このスペリー説については、「教科書の出来事をリアルな事件にあてはめて裁判をひっかきまわしている」と、検察官が露骨に不快感を示しています。
番組では、第三者の視点として新たに2人の監察医が検察側の検死結果を検証。事件直後に「死因は鈍的外傷」と判定した公式監察医エンブリー氏の検視結果は「間違ってはいないが踏込み不足」と、2人の監察医はコメントします。実はエンブリー氏は現場に足を運んでいません。また、検察・警察から現場写真やバットを裁判直前まで提示されませんでした。ナレーションではこれらの点を「重大な過失」と断罪しています。なお、番組がエンブリー氏に照会したところ、アラバマ州検死局の文書を通じて自身の検視結果は正しいとし、番組出演を拒否しています。
その後、ホワイトは従前の証言を撤回。ベティと会ったことなどなく、ウィルソン氏殺害の提案などなかったと主張…と思ったら今度は検察に強要されたとして、「撤回を撤回」し、無期懲役の身で従前の証言を通しています。
【DW S5EP13 Sins Of The Sister】
FFではあっさり説明されていたベティの素行不良について、再現ドラマを通じてスポットが当てられています。
DWは基本的に解説者の元FBIプロファイラー、キャンディス・デロン氏と元監察医ジャニス・アマトゥジオ氏(およびその他エピソードごとに事件に関与した警察当局やライター諸々)以外は再現ドラマで事件をあぶりだす形式をとっています。
ベティとホワイト(DW再現)
再現ドラマでは、「医師の妻」という肩書と浪費が好物・クローン病のため消化管に障害を抱えるウィルソン氏を人前で罵倒したり、ウィルソン氏の面前で若い愛人を連れ込んだり、というように陪審員の心証を悪くするには十分なベティの行動様式がよりわかりやすい映像で浮き彫りになります。ちなみにFFでは”リアル”ベティが連行時の警察の無礼を批判する一方で、DWの”再現ドラマ”ベティは連行時に警察に「痛いわよ!」と、生意気な態度をとっています。
分厚い毛皮のコートと同様の厚化粧、対照的にうっすいランジェリーに身を包むベティの傍らで、ペギーは肌の露出の少ないつつましやかなセーターやツーピース姿で登場。
ペギー(DW再現)
事件前には勤務先でホワイトにランチの差し入れをする他、生活苦にあえぐホワイトの相談に乗る姿が再現ドラマで演出されます。ちなみに判例をチラ見したところ、ホワイトはペギーに恋していて、ウィルソン氏を殺害したのも彼女をなびかせるためだと述べています。本当に被害者のウィルソン先生が気の毒でなりません…
ウィルソン氏は、貧しい患者からは診療代を取らず、地元で人気の医師として描かれこの点はFFと共通しています。
ウィルソン氏(DW再現)
4 5分弱で複数の女性犯罪者をカバーする関係から、DWでは人物造形がメインで、捜査や裁判についてはあっさり。法医学的相違点についての言及はなされず「ベティは有罪、ペギーは無罪。でもペギーはベティの無罪を信じているみたいよ」で再現ドラマは完結しています。〆のデロン氏も法医学の疑義については言及せず「ベティは今、いるべき場所にいる」と、淡々と有罪説を支持しているようです。






